西澤養蜂場は、初代の一松が明治42年に創業して私で4代目となります。
私が養蜂家になろうと思ったのは17歳のころ、昭和30年代でした。祖父も父も養蜂家で兄弟は8人。そのうち男は4人でしたが、全員家業に携わっていました。ですから、養蜂に関わるのはごく自然のことでした。私は字を書いたり難しいことを言ったりするのは苦手でしたが、力とやる気は人一倍ありました。父は私を「機関車」と呼んだものです。
最初のころは、近所の人に「蜂屋さん」と呼ばれるのが恥ずかしくて仕方がありませんでした。顔中を蜂に刺されて、本当の顔がわからなくなったりもしました。大洪水で巣箱を全部流されたこともありました。そのときはさすがに、「もう養蜂をやめよう」と兄弟で話し合ったものです。
それでも、家業を継いだことを後悔したことは一度もありません。子供の頃からミツバチ達に囲まれて生きてきた私ですから、ミツバチと共に生きるのが当然だったのです。
養蜂業という仕事は、やっていることはとても単純で、ミツバチが自然の花から採ってきた蜜を集めることに尽きます。しかし、ほとんどの作業は人の手でやらなければならなりません。遠くの土地への移動も疲れます。そういった部分は、簡略化するわけにいかないのです。
養蜂業は地味ですが、とてもたいへんな仕事です。3K、つまり「きつい、汚い、苦しい」に、さらに「痛い」というのが加わります。何しろ、ミツバチは刺しますから。
しかし、養蜂の歴史は何としてでも守っていかなければなりません。そして、まやかしではない、本当のはちみつをお客様に届けていかなければなりません。
ミツバチは益虫であり、人間の生活に必要なパートナーだと考えています。
ミツバチと共生しながら、いいはちみつを作っていくこと。それが私のこれまでの人生であり、その生活はおそらく生涯続くことと思います。
私は、人生に必要なモラルをすべてミツバチから習ってきたように思います。働くことの尊さ、勤勉さ、仲間の大切さ──。そういうことを生涯一養蜂家として生き、一人でも多くの方に、はちみつの秘められた可能性を感じてもらえたら。
それが私達西澤養蜂場のただひとつの願いなのです。