ミツバチの病気と習性
ミツバチの巣は、時折、病気に侵されることがあります。病気は発生の初期に見抜かないと、巣に蔓延し巣の中の蜂がすべて死んでしまうこともあります。
ミツバチの病気で最も一般的なのが、腐蛆(ふそ)病と呼ばれるもので、蜂児(蜂の幼虫)が溶けてしまう病気です。巣の中でこれが発生すると、強烈な匂いがします。もし、この病気の発生に気づかずに、はちみつを搾ってしまったら、はちみつはもちろん商品にはなりませんし、はちみつを搾るのに使った遠心分離機も二度と使えなくなります。
病気は、発生したらすぐに対処しなければなりません。その際に重要なのが、養蜂家の視覚と嗅覚です。
ミツバチに長年接していると、巣箱から巣枠を取り出してざっと眺めただけで、異常のある部屋がすぐに分かります。腐蛆病の場合なら、発生したごく初期の頃から独特の匂いがするため、それを察知しなければなりません。
ミツバチは、蜜を集めると必ず自分の巣に戻ってきます。同じ形の巣箱が何十個も並んでいても、ほとんど間違えることもなく、一直線に自分の巣箱に帰ることができます。これはホルモンの働きによると言われています。
ごくまれに、隣の巣箱に間違えて帰ってしまったりしますが、そういう場合はその巣の中にいるミツバチが「ここじゃなくて、あっちだよ」と教えてくれます。
ミツバチはなぜ益虫と言われるのか
ミツバチは、人間にとって益虫だと言われます。蜂はお尻にある針で人間を刺します。それなのに、なぜ益虫なのでしょう。
もちろん、はちみつという最高の自然の恵みを私たちに与えてくれるからということもありますが、理由がもうひとつあります。それは、ミツバチが農作物の花粉の交配をしてくれるからです。
ミツバチは、花から花へと飛び回りながら蜜を集めます。その時、体についたたくさんの花粉を花から花へと運びます。それによって雄花と雌花が交配し、果物ができるのです。これをポリネーションと言います。
ポリネーションは、人間の手によって行われる場合もありますが、ミツバチがする方が良い品質の果物ができる場合が多いです。
メロンやイチゴなどの栽培では、ミツバチによるポリネーションの方が主流になっています。
養蜂家の中には、このポリネーション用にミツバチを育てて、果樹農家に貸し出しているところも多くあります。西澤養蜂場でも、一部のミツバチをポリネーション用に貸し出しを行なっています。
養蜂家の一年
西澤養蜂場では、全国4カ所に養蜂のための土地を確保しています。採蜜の作業は、本州から北海道では半年間、沖縄ではほぼ8ヶ月に渡って続きます。
まず、4月くらいに沖縄での蜜採りの作業がスタートします。この頃に採れるのは、シロツメセンダンソウなどの花の蜜です。沖縄では、この後12月くらいまで採蜜ができます。
沖縄で養蜂を始めたのは、まだ沖縄がアメリカ領だった頃でした。たくさんの巣箱をトラックに載せて船から下りると、地元の人たちに囲まれて「ハブを取りに来たのか」と聞かれたものです。現在では地元の養蜂農家の方もいますが、当時は誰も養蜂のことなど知りませんでした。
沖縄に続いて、本拠地である宮崎でレンゲ草やミカンの花の採蜜が始まります。その後、青森に行って、りんご、アカシヤ、とち、クローバーなどの採蜜を行います。
8月頃には、北海道であざみやそばが採れ、10月頃まで採蜜は続きます。
花の種類によってはちみつの香りや味はまったく異なります。拠点を何ヶ所も持つことで様々な花の蜜を採ることができ、花の開花時期に合わせて移動することで、1年間を有効に使うことができます。
拠点宮崎から青森、北海道への旅
宮崎から青森への移動は、大型トラックを3台使い、合計500個の巣箱を運びます。
ミツバチは熱に弱く、暑いと巣ごと全滅してしまいます。トラックが止まると巣箱に風が当たらなくなるため、2人のドライバーで交代しながら、30時間以上ほぼノンストップで走り続けます。
北海道では、「熊出没注意」という看板が出ているような場所にあえて巣箱を並べます。そういう山の中にはいい花があり、いい蜜が採れるためです。
また、ミツバチは糞をするため、住宅地に近い場所だと近所の方々にご迷惑をかけることがあります。
これまで、人間が熊に襲われたことはありませんが、巣箱が熊にやられたことは何度もあります。なんといっても、熊ははちみつが大好きですから。
こうやって全国を移動して歩くのは、並大抵の苦労ではありませんが、いいはちみつを作るためには欠かすことのできない作業です。
私たちは、苦労と努力を重ねているからこそ、品質の良いはちみつをお届けすることができます。
養蜂家にとって大切なこと
養蜂業は、蜜源、つまり花がないとはちみつ作りができません。花は年々減ってきており、蜜源を長期に渡って確保するためには自然環境を守っていくことが必要です。
花はその土地のものですし、その花が生み出す蜜も土地のものです。私たちは、その土地のものをいただいています。
土地の自然を守るのはもちろん、何らかの形で、自然に恩返しをしなければならないと思っています。
また環境だけではなく、人間関係も養蜂にとって大切な要素のひとつです。私たちが青森や沖縄に行くと、「お帰りなさい」と言って迎えてくださる人がいます。それは親戚付き合いのようなもので、野菜を分けてくれたりもします。そのお返しに、私たちはその土地で採れたはちみつをお渡しするようにしています。
そういう人と人との結びつきもまた、いいはちみつを作るためには必要なことだと感じています。